もの盗られ妄想の具体的対応方法

物盗られ妄想

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社会福祉士、介護支援専門員。認知症対応型通所介護で生活相談員をしており、副業で初任者研修講師をしています。福祉業界に携わり14年になります。地域の人々に正しく認知症を理解してもらう為、地域包括支援センター、高齢者見守りセンターのスタッフと協力して認知症サポーター養成講座の講師の活動も行っています。

今回は「もの盗られ妄想の具体的対応方法」について投稿します。

 

この事例はE-bookとしてまとめたほうがわかりやすいと思い、ダウンロードして無料配布という形をとったのですが、今まで2回しかダウンロードされていないので公開することにしました(汗)

 

今回はE-bookの内容をそのまま投稿します。

 

「ゼロからわかるもの盗られ妄想の具体的」をE-bookを作った経緯

 

私は認知症対応型のデイサービスで生活相談員として勤務しています。

この業界で働くのは15年目になり、色々な症状の認知症の利用者様を見てきました。

 

 

今となっては、認知症の利用者様の対応方法も熟知しているので、信頼関係を築くことができるようになりましたが、デイサービスで働き始めた頃はどのように対応すればわからず、怒らせて殴られることもありました。

 

 

自分はこの仕事が向いていないのか・・・・

 

 

ネガティブなことばかり考えて眠れない日もあり、本当に辛い日々でした。

特に辛かった出来事が利用者様に「もの盗られ妄想」により泥棒扱いされたことでした。

泥棒扱いされてしまうと利用者様との信頼関係を築くことができません。

 

 

もの盗られ妄想により「泥棒」とインプットされると関係を修復する事は非常に困難になります。

 

 

また、認知症の人と一緒に暮らしている家族や介護職員からも「もの盗られ妄想」の対応の相談が非常に多いです。

 

 

そこで、「もの盗られ妄想の具体的対応」をE-bookにまとめ、もの盗られ妄想で困っている多くの人達の役に立てないかと考えました。

 

 

対応が難しい「もの盗られ妄想」も適切な対応をすれば、自然と見られなくなります。

 

 

これからお伝えすることをしっかりと読まれれば、「もの盗られ妄想」が見られた時、適切な対応をとることができるようになり、信頼関係も築くことができます。

 

 

是非、最後まで読んでいただけたらと思います。

 

 

 被害妄想の一種、もの盗られ妄想

 

もの忘れは認知症の代表的な症状です。

 

なかにはもの忘れによって大切なものをどこかに置き忘れたときに、条件反射のように「盗られた」と考えてしまう人がいます。

 

 

 「自分がなくすはずがないのだから、誰かが盗ったのだろう」という単純な思考です。

 

 

この場合、外から泥棒が入ったと思い込むこともありますし、身近な人が犯人扱いされることもあります。

 

 

この時、犯人扱いされてしまった人は納得がいかないでしょう。特に日頃一生懸命介護をしている人は大きなショックを受け「私ではない!泥棒扱いするなんてひどい!!」と反論したくなってしまいます。

しかし、本人は「盗まれた自分こそが被害者だ」と思っているので、まともな反論は逆効果です

 

 

むしろ、大切なものを盗まれたうえに、無礼な扱いを受けたことを理不尽に感じ、被害的な妄想に拍車がかかってしまいます。

 

 

多くの人は、「もの盗られ妄想」が見られた時、自分を守るためにまともな反論をしてしまい、口論となってしまいます。

 

 

この時、「泥棒」とインプットされてしまい、関係を修復することが難しくなります。

 

 

では、「もの盗られ妄想」が見られた時、どのように対応すれば良いのか、私が実際にあった事例を交えて説明していきたいと思います。

 

 94歳女性Aさんの事例

 

Aさんは94歳で認知症の症状はありますが、自立心が強く、何とか身の回りの事も自分でできるので一人暮らしをしています。毎日1km離れたスーパーに杖をついて歩きながら買い物が習慣になっています。

 

 

Aさんは戦争を経験し、厳しい時代を生きてきました。「戦争が終わった時、何も残っている物がなく夫婦で一生懸命がんばって生きていた」「お金がなくて本当に大変だった」とデイサービスを来所するたびに話していました。

 

 

他の利用者様にもお金の話ばかりしていたので、嫌がる利用者様もいました。遠方に住む息子さんにも話をうかがっても「昔からお金に対しての執着心が強かった」とのことでした。

 

 

デイサービスの月額利用料は口座引き落としなのですが、Aさんの強い希望により毎月決まった日にデイサービスに来所した時に現金で持ってきてもらうようにしました。

 

 

Aさんがデイサービスを利用して3ヶ月目のことです。

 

 

利用料の支払日が近くなっていたので、「次回、利用料をお持ちいただけますか」とお願いすると

 

 

「私、もうお金払ったわよ!」「これを見てちょうだい!」

 

 

見せてくれたのは「●月●日アライさんに2万円預けた」とAさんの直筆で書かれたメモ用紙でした。

 

 

メモ用紙を見てびっくりしてしまい、条件反射で「いつも渡している領収書と違いますよ!」と少し強めの口調で言ってしまいました。

 

 

 いつも渡している領収書を見せると「ああ、そうね・・」と答えたので、次回利用料を持ってきてもらうように説明し納得してもらいましたが、表情は煮え切らない様子でした。

 

 

一週間が過ぎ、Aさんが来所して席に座ると、周りにいる利用様達に「アライさんが私を電話ボックスに連れ込んで2万円盗った」と直筆のメモ用紙を見せ始めました。

 

 

 被害妄想に拍車がかかっていて、私は完全に「泥棒」としてインプットされていました。

 

 

これはマズイと思い、しばらくAさんの対応は他のスタッフに任せることにしました。

 

 

前回、Aさんは領収書を見せて納得してもらったのですが、心の中ではモヤモヤした部分があり、本当に納得していなかったのです。

 

 

なぜ被害妄想に拍車がかかってしまったのか考えてみたいと思います。

 

 

なぜ被害妄想に拍車がかかってしまったのか?

 

Aさんに利用料を払っていない事を納得してもらうため、『いつも渡している領収書を見せる』という対応は間違っていなかったのですが、一つ大きなミスがありました。

 

 

 それは『いつも渡している領収書ですよ』と少し強い口調で言ってしまったこと。私が感情的になってしまったことです。

 

 

私が感情的になって対応してしまったので、Aさんは「私は利用料を払ったのに、こんな言われかたをするのはおかしい!」「私は間違っていない!」という感情が残りました。

 

 

 領収書は確認したけれどモヤモヤした部分が残り、それが被害妄想となってしまったのです

 

 

時間が経ち、被害妄想が膨れ上がって「私がAさんを電話ボックスに連れ込んで、2万円を盗った」泥棒になってしまいました。

 

 

他のスタッフがAさんの部屋に入らせてもらうことがあったのですが、「●月●日アライさんに2万円盗られた」と書かれたメモが部屋中に貼ってあったとのことでした。

 

 

Aさんが私を見かけるとメモ用紙を見せながら「2万円返してちょうだい!」と言うようになったので、ますますAさんと関わることが難しくなりました。

 

 

このままではAさんとの信頼関係を築くことができないし、周りの利用者様達にも悪い影響が出てしまいます。

 

 

スタッフでのミーティングの中でAさんの「もの盗られ妄想」を今後どう対応するか議題にあがりました。スタッフの意見の中には「時間が経てば忘れるのでは?」との意見もありましたが、部屋中にメモが貼ってあるとのことなので、忘れることはないと思いました。

 

 

具体的な対応方法の意見はでないまま、「Aさんはアライさんと関わりを少なくするようにして、しばらく様子をみよう」ということに決まりました。

 

 

私はスタッフの皆さんに迷惑をかけて、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいでした。

 

 

この対応で「もの盗られ妄想」がなくなった

このままではAさんとの関係が悪くなる一方なので、打開策を考えなければならず、もう一度Aさんの情報を整理してみることにしました。

 

 

・Aさん 94歳

・自立心が強い。

・昔、洋裁学校に通っていた。

・休みの時、暇な時間は裁縫をしている

・若い時、男性と肩を並べてバリバリ働いていた

・お金に対してのこだわりが強い

・権威のある人(ケアマネージャー、管理者)の言うことは素直に聞く

・デイサービス利用中、できることは何でもやりたがる(ゴミ捨て、掃除、お茶汲み、後片付け)

・毎日、近くのスーパーに朝食べる、リンゴを買いに行くことが日課になっている

・昔、ホームヘルパーを利用していたが、家の中を掃除される事が嫌になり利用中止になった

 

※他にも色々と書き出したのですが、割愛させていただきます。

 

 

このようにAさんの情報を書き出すことによって、頭の中で整理ができて、あることが思いつきました。

 

 

Aさんは裁縫が好きで自分の作った洋服やカバンなどを持ってきて見せてくれることも、しばしばもあり、ケアマネージャーさんの破れたズボンを縫ってあげたこともあると笑顔で話していたことを思い出しました。

 

 

そこで、Aさんに裁縫を通じてコミュニケーションとろうと考えました。

 

 

昔、洋裁学校に通っていたし、家で裁縫もしているので、ボタン程度なら縫うことも可能だと思い、Aさんにお願いしてみることにしました。

 

 

捨てても良いシャツのボタンをハサミで切り取り、準備を整え、今回は管理者さんからAさんに「アライさんがボタンをつけてほしいみたい」「Aさん、ボタンを縫えますか?」と伝えてもらいました。

 

 

Aさんは「いいわよ。ボタンを縫うことなんて簡単よ!」と笑顔で承諾してくれました。

 

 

Aさんは針の穴にスッと糸を通し、94歳とは思えない手付きで上手に縫っていました。

 

 

真剣な表情でボタンを縫っている姿を見て、Aさんは本当に裁縫が好きなんだと感じました。

 

 

Aさんがボタンを付け終わると「これくらいなら簡単にできるわよ!」「まだ、ボタンがほつれている洋服があれば持ってらしゃい」と笑顔で話してくれました。

 

 

Aさんの笑顔を見て、本当に嬉しくて「ありがとうございます!本当に助かりました!」と、心の底から感謝の言葉を伝えました。

 

 

Aさんも笑顔を見せてくれて、その日は「もの盗られ妄想」が見られず、楽しそうに過ごされていました。

 

 

確かな手応えを感じたので、Aさんが来所する日に合わせて、捨てても良いシャツのボタンをハサミで切り取り、今回は私がAさんにボタンを縫ってもらうようにお願いしました。

 

 

前回と同じように「ありがとうございます!本当に助かりました!」と心の底から感謝の言葉を伝えました。

 

 

Aさんにボタンを縫ってもらうことによって、自然とコミュニケーションすることも多くなり、徐々に関係が修復し、お互い笑顔で話すことも増えてきました。

 

 

しばらくの間、Aさんにボタンを縫ってもらうようにすると、次第に「アライさんに2万円盗られた」という被害妄想が聞かれなくなりました。

 

 

1ヶ月後にはAさんとの関係は完全に修復し、以前よりもAさんから声をかけられることが多くなりました。

 

 

Aさんが来所する日に私の休みが重なると、Aさんは「今日はアライさんはいないのかしら?」「アライさんがいないと寂しいわね・・」と言っているとのことです。

 

 

こうして、Aさんとの関係は以前よりも強い信頼関係が築くことができました。

 

 

もう一度、ポイントをまとめてみたいと思います。

 

 

一方的な関係から、相互的な関係へ

 

本来、人と人との関係は相互的なものです。しかし、介護されている人は、介護者に一方的に迷惑をかけている関係のように感じてしまいます。

 

 

本当は人に頼らず、自分の力で生活していきたい気持ちが強いAさんにとっては受け入れがたい現状なのです。

 

 

デイサービスの来所中もスタッフに頼ることなく、自分でお茶汲みをし、率先してゴミ捨て、後片付けをしてくれます。自立心の強い性格のAさんは、心ならずもデイサービスのスタッフに迷惑をかけている気持ちがあるからの行動だと思います。

 

 

記憶障害とお金への執着心が重なり、「利用料を払った」という妄想が生まれたのは、一方的な弱者である自分の立場を妄想によってバランスをとるためなのです。

 

 

このような場合、まずは一方的な関係を改善することが重要です。

 

 

まずは役割を持ってもらい、介護者が助けてもらうことや、得意なことを介護者が教わることが効果的です

 

 

Aさんの事例で考えると、『私がAさんにボタンを縫ってもらうことをお願いする』行為は

 

ボタンを縫ってもらう・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・役割』

ボタンを縫ってもらうことによって洋服が着れるようになる・・・介助者(私)が助かる』

ボタンを縫っているところを見る・・・・・・・・・・・・・・・介助者(私)が教わる』

 

上の3つの効果的な行為が含まれています。

 

 

Aさんのプライドを満たされることで相互的な関係を築くことができ、自然と『もの盗られ妄想』がなくなったのです

 

 

このように『もの盗られ妄想』が見られる人には、一方的な関係から相互的な関係を築くことが重要になるのです。

 

 

否定せず、受け入れましょう

 

Aさんの事例で私が大きなミスをしたことを覚えているでしょうか?

 

「●月●日アライさんに2万円預けた」とAさんの直筆で書かれたメモ用紙を見てびっくりしてしまい、条件反射で「いつも渡している領収書と違いますよ!」と少し強めの口調で言ってしまったことです。

 

 この時、冷静にAさんの主張を受け入れなければいけない場面でした。

 

私がAさんの主張を受け入れて、落ち着いたトーンで話をしていれば違った展開になったと思います。

 

 

認知症の人は『声のトーン』や『表情』など、非言語的な部分を敏感に感じ取るのです。

 

Aさんは私の声のトーンを聞いて、『自分が責められている』と感じたのでしょう。

 

『私は間違っていないのに、何でこんな屈辱的な思いをしなければならないの?』

 

そうした思いから被害妄想が生まれてくるのです。

 

 

『もの盗られ妄想』が見られたら、声のトーンに気をつけて落ち着いて対応し、受け入れてあげることが重要なのです。

 

情報を整理する

 

まず、先ほど話した現実生活の中でできる『役割』を作るための情報が必要となります。

 

 『役割づくり』の条件

  1. 昔やっていたことか、それに近いこと
  2. 今の体や精神の能力でできるか、本人ができたと思えること
  3. その役割を果たすと周囲から認められ、ほめられること

 

この中で②の条件には特に注意を払って下さい。自立心の高い認知症の人は虚勢を張ることがあるので、できるかどうかをきちんと把握しましょう。

 

事例ではAさん情報を書き出すことによって、『役割づくり』の条件を整理することができました。

 

  1. 『昔、洋裁学校を通っていた』
  2. 『現在も暇な時、裁縫をしている』
  3. 『ボタンを縫ってもらうことによって依頼者(私)から感謝される』

 

 

情報を書き出し、頭の中で整理することで、打開策を見つけることができます。

 

 

権威がある人を利用する

 

もの盗られ妄想』がある人は権威がある人の言うことを素直に聞く傾向があります。

 

 

Aさんも権威のある人には頭が上がらず、私が泥棒扱いされた時も管理者さんに助けてもらうことが多々ありました。Aさんは管理者さんの事を一番信頼しているのがわかっていたので、最初にボタンを縫ってもらう時は管理者さんにお願いしました。

 

 

例えば、『もの盗られ妄想』が始まった時、かかりつけ医の名前をだして、その人の言葉として伝えると落ち着く場合もあります。

 

 

また、介護保険サービスを利用しているのならば、ケアマネージャーさんや管理者さんなど名前を出しても良いと思います。

 

『もの盗られ妄想』がより複雑な妄想になることもあります。

妄想的になりやすい素質を持った人にストレスがかかったときに、単純なもの盗られ妄想から『家の財産をねらっている』とか『家を乗っ取られる』といった妄想に発展します。

 

 

これには『妄想的になりやすい』という素質が深く関与している場合があるので、妄想を治療する抗精神病薬が効果を上げることもあります。

 

 

Aさんも初めは『アライさんに2万円を預けた』から『電話ボックスに連れ込まれて2万円を盗られた』と被害妄想が大きくなっていました。

 

 

私はAさんに泥棒扱いされた時、ものすごいストレスを感じ疲弊していました。

 

 

 

疑われている介護者が疲弊しないよう、心理的な支援をすることが大事です。

 

 

家族だけで抱え込まないようにしましょう

 

『もの盗られ妄想』は家族だけでは対応しきれない場合が多いので、介護保険サービスを利用することをおすすめします。

 

 

特にデイサービスやデイケアに行き、外に出る機会を増やし、そこの職員に相談して『役割』を作ってもらうのも良いと思います。

 

 

また、『もの盗られ妄想』が大きくなり、対応が難しくなった時は、妄想の対象となっている人を守るためにも、本人の症状を軽減するためにも、認知症をよく理解している専門医に相談することも視野にいれておいて下さい。

 

アライ レオ
下にあるE-bookも同じ内容ですが、PDFとしてまとめてあるので、レポートなどに活用できると思います。よかったらダウンロードしてください。

 

参考文献

この文献は問題行動の「良い対応」と「良くない対応」が具体的に書かれていて、イラスト入りでわかりやすいです。
認知症のタイプ分けもぴったり当てはまり、本人の気持ちや行動の理解に役立つと思います。


新しい認知症ケア(介護編) 完全図解 (介護ライブラリー) [ 三好春樹 ]

 

物盗られ妄想



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